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事例とレポート

SOHOの契約・債権管理について No.3

2005/04/27 14:40


1. フォローの必要性
かつては、「契約書に、お客さんの判をもらう」=「注文を取る」というだけで仕事、特に営業の仕事は終った、と思い込んでしまう傾向があったのではないでしょうか?
しかし、SOHOの方たちは、注文を取ってから仕事にかかる訳ですから、契約段階で「やれやれ」というような思いはハナから無いでしょう。
また、一般企業においても、不況が長期にわたり、かつ、深刻化するに従って、売掛金を回収するまでは「ハラハラ、ドキドキ」の連続かもしれませんね。
ですから、「契約した後のフォローが必要である」と言ったら、「そら、当り前でしょう」と言われるかもしれません。
しかしながら「契約後のフォロー」には、

(1) 契約内容(多くの場合、受・発注やサービスの内容)の具体化(「現場化」と言っても良いでしょう)。
(2) (1)に基づく支払い以外の契約の履行状況の監視・点検
(3) 支払い・回収の確保

と、大まかに分けて3つの部分があると思います。

この内、(1)と(3)についてはみなさんが日常業務の中で明確に意識されている部分だと思いますが、(2)については、SOHOを含む中小企業の場合、余り明確な形で日常業務に組み込まれていないのではないか、と思います。
そこで、今回はこの点を取上げてみることにします。

2 「契約」がない場合
  また、1で述べた(2)の部分は、適確な契約書が無い場合(全く無い場合は勿論、形式上は「契約書」と題する書面はあるが、出来合いの書式をよく検討しないで使っている場合等も含みます)等にも、契約内容(「契約書」の有無にかかわらず、当事者間に成立、存在している合意内容)の明確化・紛争発生時の立証可能化等に有効なものに違いなく、この点をしっかりできているようならば、自社の利益をかなりの程度、確保できるでしょう。

3 フォロー業務の目的
今回説明するフォロー業務の目的は、繰り返しになりますが、

(1) 契約内容の明確化。
特に、自社のなすべき義務範囲を限定して、相手の要求や希望になし崩し的に引き摺り回されることを阻止し、また代金請求などの自社の権利行使に対する不当な制約(値切りや支払い保留の口実などなど)が加えられることを阻止する。
(2)万一、紛争が発生した場合に、第三者(窮極には裁判官)に、自社の言い分を立証できるような形で証拠を残しておく。

ということです。

で、上記(2)ができていれば、多くの場合、紛争が発生しかけても、自社の紛争当事者としての優位性(「出るとこに出たら勝つ可能性が高い」という意味です)を確保できていることから、相手が勝負を降り易いことにより、紛争を未然に防止できるものです。

4 具体的なフォロー業務−その1 記録化
(1)業務記録を作る。
毎日、社長以下、各担当者が業務日誌等の業務記録を作ります。
業務日誌(書面)を作る場合のポイントとしては、

[1]5W1Hを明確にする。
相手とのやりとり(電話を含む)や出来事、進捗状況等を「何時」「どこで」「誰が」「何を」「どのように」「どうした」が明確になるように記録します。
記載もれの無いように簡単な書式(フォーマット)を作るということも考えられますが、後述[2]の理由により、同一の用紙に、切れ目無く、時系列に沿って順次記載していく方が証拠としての信用力は高まります。
また、「何時」は「○年○月○日午前○時○分」まで記録すると、非常にリアリティーがあって、信用力がアップします。

[2]なるべく紙に手書きしていく。
これは、業務日誌の証拠としての信用性を高めるためのものです。
つまり、ワープロを使って業務日誌を作成すると、あとから作成又は改ざん(作り変え)することが容易であることから、証拠としての信用力がイマイチ、ということがあり得るからです。
また、[1]で述べたように、同一の用紙に行間を詰めて時系列に沿って記載していけば、その形態からして、後から新たに作ったり、改ざんしたりすることが殆んど不可能であることが一見してわかりますから、証拠としての信用力は大きく高まります。

[3]FAX、Eメール、写真等の資料を保存、添付する。
これらは原始資料ですから、必ず保管し、業務の流れの中での位置付けが明確になるようにします。

[4]録音等
「もめるんじゃないか」「相手が態度(言い分)を変えるんじゃないか」という嫌な予感がしたら、隠し録音をするのも有効な方法です。
「隠し録音は違法な手段で、場合によっては犯罪になるんじゃないか!?」と思い込んでいる方もいますが、盗聴(これは、犯罪)と異なり、相手は発言内容をあなたに聞かせることを前提にしゃべっている訳ですから、違法性はありません。
但し、相手の発言内容等を公開する等のことをすると、別の問題になってきますが、例えば、訴訟の証拠として使う分には、問題にはなりません。
ただ、カバンに録音機器を入れて録音するような場合は、再生してみたら、相手の発言が殆ど聞きとれないなど、うまくいかないことが多いようです。
その点、電話録音の場合は、クリアに録音できます。

5 業務記録の効能及び使い方
[1]当者自身が業務遂行や交渉過程等を明確に把握でき、忘却、記憶の混乱等を防ぐことができます。
また、社長や上司等も同様に把握でき、経営管理の面でも役に立ちます。

[2]相手との交渉においても、相手がフラフラしたり、前言を翻したり、その場逃れのことを言ったり、嘘をついたりした場合、「あなた(又は御社の担当者)は、何月何日何時何分の電話で『かくかくしかじか』と言った」などと強く出れます。
録音は勿論のこと、業務日誌であっても、「そんな記録は、後で都合の良いように作れるから何の意味も無い」と言われることは、前記4の??のような作り方をしていれば、言われることはありません。
多くの場合、相手は、こちらが精密な記録を取っていることを知っただけで態度を変えてきます。

[3]裁判等の手続では、書面がものを言います。
また、弁護士等に相談する場合でも、事実関係の把握や自社側のストーリー作りに便利ですし、その結果として、相談も比較的短時間で済み、法的な結論も得やすいことになります。

6 両刃の剣?
問題が発生したときに業務日誌等を読んでみると、自社に不利な事実が記載されていることも間々あります。
民事訴訟法は、文書提出命令の制度を大幅に拡充したので、裁判所の命令により、不利な業務日誌等の提出を余儀なくされる可能性もあります(『自己使用文書』として提出拒否できる場合もありますが)。
医療過誤訴訟などでは、カルテを詳細につける几帳面な医師ほどミスがはっきりして敗訴率が高く、杜撰な医師はミスがはっきり分らないため、かえって勝訴し易いと云う矛盾もあります。
この点、業務日誌の作成方法に工夫を要するかもしれませんが、不利なことを書いてこそ、全体的として自社の業務日誌の信用性が高まると云うことも言えますので、この点は割り切って考えざるを得ません。
勿論、決定的に不利なら、その問題ついては業務日誌等の利用自体をやめることになります。

以上に、述べてきたことは、非常に面倒クサイことですが、反面、お金を使わずにできることなので、是非、試みて下さい。

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